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健人が社員旅行に選んだ、ONKアミューズメントパーク。
その中の、一番高価なレストランに、大輝は彼を呼びつけた。
とはいえ、費用は全て健人が支払うことになっている。
全社を挙げての旅行だが、スタッフたちはそれぞれ家族や友人を連れているのだ。
滞在する間は、全て自由行動にしていた。
そして、敷地内の施設やショップなどで使える、ICカードを渡してある。
利用金額は、健人の口座から引き落とされるという、仕組みだ。
自分が支払うレストランとはいえ、大輝に誘われた健人は、素直に喜んでいた。
「ご一緒できるとは、光栄です」
「いいえ、僕の方こそ。ぜひ長谷川さんと、お近づきになりたいと思いまして」
「高橋さんのお母様は、昨年から議長をお務めですよね。おめでとうございます」
「母を、ご存じなんですか?」
「両親は、いつもお母様に投票しておりましたので」
「それはどうも、ありがとうございます」
美咲は健人を誘うために、大輝の母の名を出していた。
高橋 紗英(たかはし さえ)議員の名前は、この地方では有名だ。
正義感が強く、社会的に立場の弱い者たちのために働く有言実行の人。
その政策に、私財を投じることも厭わない行動力も、持っていた。
母を褒められ、大輝は気が大きくなった。
「実は今度、僕も選挙に出馬しようと思っています」
「そうですか。では、一票入れますよ」
健人の明るい言葉に、大輝は身を乗り出した。
「選挙活動、そして当選してからも、何かと物入りです。そこで、長谷川さんに提案が」
「何でしょうか」
「この僕と、1億を賭けた勝負をしませんか?」
「ええっ!?」
健人は、絶句していた。
声を上げたのは、隣に掛けていた由宇だ。
(このヒトは、いったい何を企んでいるのでしょう!?)
美咲だけでなく、その彼氏・大輝も要注意人物だったとは!
由宇は、警戒心を高めていた。
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