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 これから僕が言うことは、全て健人さんの言葉と思って、聞いてください。  そう前置きをし、由宇は大輝に賭けの条件を提示した。 「もし、高橋さんが勝ったら」 「勝ったら?」 「3倍額の、3億お渡ししましょう」  大輝と美咲は、息を飲んだ。  元金の1億と合わせると、4億もの大金が手に入るのだ!  大輝は動揺を隠そうと、再びワイングラスに腕を伸ばしたが、その指先は震えている。  細かく波打つワインを見ながら、健人はわずかに首を傾げた。 (由宇くん、一体どういう思惑を?)  正直、3億失っても、健人は痛くもかゆくもない。  莫大な資産を、由宇によって得た身なのだから。  それに、由宇のことだ。  損をすれば、またそれを上回る額を、オンラインバンクを操作して作ってしまうだろう。 「喜ぶのは、まだ早いですよ。高橋さんが、負けた場合は。その時は」 「その時は?」 「吉井 美咲さん。あなたは、二度と健人さんを誘惑しないでください」  ギョッとしたのは、美咲だけではなかった。  大輝もまた、彼女を見て眉を上げていた。

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