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「み、美咲……?」
びしょ濡れになってしまった、大輝だ。
しかし彼は、濡れた服よりも、美咲に強く意識が働いた。
そしてそれは、健人と由宇も同じだった。
「美咲、怒ったのか? 俺が、君の言葉を否定したから……」
「違うし! 大輝、全ッ然わかってない!」
とにかく、と健人はテーブルナプキンを、大輝に差し出した。
彼ときたら、顔に掛かったワインが目に染みて、涙を流しているのだ。
レストランのスタッフも気づき、慌ててタオルを持ってきた。
「お客様、大丈夫ですか? どうぞ、これでお拭きください」
「放っといてやって! 今、頭を冷やしてるところだから!」
美咲は、まだ怒りが収まらない様子だ。
タオルを頭に被ったまま、大輝はすぐに謝った。
「俺が失言したなら、謝るよ。でも、なぜだ? 理由くらい、教えてくれ」
「由宇くんの気持ち、土足で踏みにじった! いいじゃん、アンドロイドが恋しても!」
怒りながら口走る美咲の言葉は、明らかに本音だ。
感情に任せて放つヒトの言語行動は、心の叫びなのだ。
由宇のAIには、それがしっかりとインプットされている。
しかし、なぜ美咲は由宇を庇い、大輝に対して怒ったのか。
由宇自身には、それが全く解らなかった。
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