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(僕の頭の中は、謎でいっぱいです……!)
先ほどまで自分は、美咲の悪だくみを暴き、その立場を危うくしていた。
彼女には恨まれて当然というのに、その行動は予想と全く違ったのだ。
(吉井さんの性格だと、高橋さんと一緒になって、僕を笑うはずなのに)
それどころか、由宇の健人への愛情を認め、彼を擁護したのだ。
ヒトの言動には、まだまだ不可解なことがあるらしい。
自分で考えても、答えは出てきそうにない。
由宇は、ここは素直に美咲本人へ訊ねることにした。
「先ほどから僕は、吉井さんを攻撃していました。すみません」
「えっ? 何、いきなり」
「それなのに、僕を庇ってくださって。ありがとうございます」
「もう、いいよぉ。だって、さ。それは、私に嫉妬してたから、なんでしょぉ?」
その通りなのですが、と由宇は首を傾げた。
「攻撃する僕を憎んで、嘲笑うのではなく。高橋さんに怒ったのは、なぜですか?」
「えぇ~? それって、言わなきゃダメ?」
「ぜひ、知りたいです。もっと、ヒトの心を理解したいんです」
美咲は少しの間、もじもじしていたが、やがて由宇の方を向いた。
そして小さな声で、マジレスすると恥ずいんだけどぉ、と前置きしてから告白した。
「由宇くんの、長谷川さんへの愛情って、ピュアで素敵だな、なんて思ったりして」
照れくさいのか、彼女は爪先のネイルストーンをいじりながら、続けた。
「私に嫉妬しちゃうとか、可愛いしぃ。何か、純愛、って感じ?」
「吉井さん……」
健人は思わず、声を漏らした。
それは明るい、晴れやかな響きを持っていた。
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