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 健人は、不思議そうな表情の由宇に、うながした。 「まぁ、いいから。開けてみて」 「変な健人さんですね」  しかし、開けてみるとすぐに、由宇は健人の真意を悟った。 「あ! これって……!」 「由宇くん、ショップでずっと見てただろ?」  袋の中から出てきたのは、ミントグリーンのキャップだ。  さっそく被ってみる由宇に、健人は笑顔で語った。 「気に入ったんだろうな、って思って。うん、よく似合ってるよ」 「ありがとう!」  ニコニコしていた由宇だったが、ふと気づいたように瞳が曇った。 「ごめんなさい。僕、健人さんへのお土産を買っていません」 「いいんだよ、私の自己満足なんだし。それに……」 「それに?」 「由宇くんの嬉しそうな、その笑顔。何よりのお土産だ」  優しい健人の言葉に、二人を包む空気が温かくなった。  甘い雰囲気に、なってきた。 (さすがに今夜は、由宇くんも疲れてるだろうから)  エッチはお預けにしようと思っていた、健人だ。  しかし、彼の潤んだ瞳を覗き込んでいると、ふつふつと熱い昂ぶりが湧いてくる。  ピンクの唇に、吸い寄せられそうだ。 (キスだけ! キスだけだから……!)  健人が由宇に顔を寄せようとした時、その唇が動いた。 「ところで、健人さん。高橋さんとの勝負は、競馬ということになりました」 「こんなシチュエーションで、そういう話しする……?」  健人は、がっくりと肩を落とした。

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