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 甘い雰囲気に突然、競馬の話題などぶち込んで来た、由宇。  健人は実にがっかりしたが、確かにこれ以上引き延ばすわけにもいかないだろう。  少し背筋を伸ばし、由宇の説明に耳を傾けた。 「来月開催される『スター・優駿カップ』が、賭けの舞台に設定されました」 「うん。なるほど」  健人の住む自治体には、競馬組合がある。  その地方公共団体が主催する公営競馬が、いわゆる地方競馬だ。  中央ダービーより小規模だが、ファンは多い。 「特にこのレースは、2歳馬のデビュー戦です。波乱含みと言えます」 「だから、ギャンブル性も高いわけか。私と高橋さん、どちらが勝つか、解らないな」  そんな健人の発言に、由宇は人差し指を横に振った。 「甘いですね、健人さん」 「えっ?」 「競馬勝負を持ち掛けてきたのは、美咲さんです。つまり、高橋さんの方からです」  これは彼に、絶対に勝てるという確信があるからなんです、と由宇は凄んだ。 「僕は美咲さんと友達になりましたから、アドレスも交換しました。そこで」 「そこで?」 「彼女の端末をハッキングして、高橋さんの端末に忍び込み、彼の周辺を探ったのです」 「由宇くんは、またそんな真似を。勝手に他人の情報を盗み見るのは、悪いことだよ?」  ごめんなさい、と由宇はしおらしく頭を下げた。  だがすぐに顔を上げ、身を乗り出して続けた。

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