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「高橋さんの親族に、競走馬の育成牧場経営者がいるんです!」
「えっと、それはつまり……」
「高橋さんは、そこから強い馬の情報を知ることができます。おそらく、ナンカイイーグルを指定するでしょう」
「その馬は、速いの?」
「父はゴールドライト、母はライムリカー。いずれも、ダートG1で活躍した名馬です」
「それは、すごい!」
感心してる場合じゃない、と頬を膨らませる由宇だ。
健人は、その丸くなった頬を両手で包み、静かに訊いた。
「由宇くん。そんなに多くの情報を一度に検索して、大丈夫かい? 頭がパンクしないかい?」
いくら優秀なAIとはいえ、この小さな形の良い頭に収まる程度の大きさだ。
容量がいっぱいになったり、熱がこもって不調の原因になることを、健人は恐れた。
「それに。君は世界規模の銀行にアクセスしたり、それだけじゃなく、情報を書き換えたりもしたよね」
セキュリティをかいくぐるために、相当な負荷がかかったのでは?
「私は、心配だよ……」
由宇はそんな優しい健人の手を取ると、窓辺へといざなった。
窓を開け見上げると、すっかり暮れた夜空に星が瞬いている。
「心配してくれて、ありがとう。健人さん」
そして彼は、その暗い空を指さした。
「でも、大丈夫です。僕のメインブレインは、あそこにあるんです」
「まさか……宇宙?」
「はい。大きすぎるので、人工衛星に乗せて地球の軌道上にあります」
「由宇くんは、スーパーコンピューターなのかい!?」
「そうとも言えます。スパコンは宇宙にあり、僕はその端末のようなものです」
健人は安堵したが、同時に驚き戦慄した。
(由宇くんは、国家プロジェクトレベルの人工知能なのか!?)
そんな彼が、なぜ中古品としてフリマで売られていたのか。
彼への疑問が、健人の中で一気に膨らみ始めた。
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