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「健人さん、ちゃんと聞いてますか?」
「えっ? ああ、うん。それで?」
「……聞いてませんでしたね?」
「聞いてるよぅ。出走馬6頭のうち、推し馬3頭を選ぶんだろう?」
高橋と健人が勝負するレースには、6頭の2歳馬が出走する。
お互い3頭をそれぞれ選び、その中に一着を獲った馬がいる方が、勝ちだ。
「6頭のデータは、すでに僕の頭に入ってます。勝てそうな馬を、3頭選びましょう」
「でも、3頭の推し馬が被った場合は、どうするんだろう」
「その時は、高橋さんとじゃんけんで決めます」
「じゃんけん!」
データ重視の由宇が、いきなりじゃんけんなどと言い出すので、健人は笑った。
だが、その緩い勝負法にも、由宇は手加減しなかった。
「高橋さんがじゃんけんで最初に出すのは、グーです。確率は、62.7%と、非常に高く……」
「待って。由宇くん、ちょっと待って」
とにかく勝ちに行こうと生真面目な由宇を、健人はとどめた。
「そこまで完璧を求めるのは、どうかな。明日、競走馬のトレーニングセンターにでも行ってみないか?」
「レースに出る馬の状態は、パソコンで管理されています。僕がハッキングして、その情報を入手しました」
「競馬は馬だけでなく、騎手も大切な役割を持っているよ?」
由宇が健人に言い返そうとした時、ふいに携帯の着信音が響いた。
スマホを手にした健人は、目を円くして声を上げた。
「瑞紀(みずき)くん! 元気かなぁ、久しぶりだ」
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