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「高校生の時、付き合ってたんだ。瑞紀くんと」
「やっぱり!」
由宇は、手近にあったクッションを素早くつかむと、それで健人をバンバン殴り始めた。
「ちょ、由宇くん! 待って! 話を最後まで聞いて!」
「僕に内緒で、他に好きな人がいたなんて!」
「違うよ! 彼とはもう、終わったんだ!」
「言い訳は聞きたくありません!」
「頼む! 言い訳させて! 落ち着いて!」
確かなデータを元に、冷静な判断をくだす。
だが、健人が絡むと途端に感情任せになる。
そんな由宇を可愛いと思いながら、健人は彼が殴り飽きるのを待った。
やがて、手にしたクッションを胸に抱きかかえ、由宇は唇を尖らせてあぐらをかいた。
「一応、聞きましょう。その言い訳とやらを」
「ありがとう。恩に着るよ」
そして健人は、瑞紀との関係を語り始めた。
正直に、素直に。
妙な作り話はせずに、本当のことだけを話した。
そして由宇は、それに口をはさむことなく、静かに聞いた。
(僕と出会う前の、健人さんの恋……)
事実を知るのは、少し怖い。
(まるでヒトのような感情が、僕の中に生まれて、育っている)
それは、良いことなのか。
それとも、悪いことなのか。
まだ解りはしないが、今はただ健人の思い出話に耳を傾けた。
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