114 / 256

3

 過去を懐かしむ健人の目は、どこか遠くを見ている。  由宇は、ひどく不安になってきた。 (愛した人から、久しぶりの電話があるなんて)  瑞紀が、もう一度付き合いたい、などと言い出したらどうしよう。  いや、瑞紀とは限らない。 (健人さんが、瑞紀さんへの恋を再燃させたりしたら、どうしよう!)  少しの間、ぼんやりしていた自分に気付き、健人は我に返って由宇に視線を戻した。  元・恋人の話なんかして、またクッションで殴られるかと思ったが、彼は様子が変だ。  うつむき、瞼を伏せ、唇を薄く噛んでいる。 (これは、失敗しちゃったなぁ)  健人は、すぐに由宇の気持ちを察した。  以前、美咲と二人で食事をした時も、こんな表情を見せたのだ。  瑞紀との関係を、不安視しているに違いない。 「ごめんね、由宇くん。瑞紀くんとは、もうただの友達だよ」 「……本当ですか?」 「彼にも、新しい恋人がいるから心配しないで」  健人の言葉に、由宇は気づいた。 『彼にも、新しい恋人がいるから心配しないで』 「彼にも、って。『も』というのは……」 「もちろん、私にも今の恋人がいる、ってことさ。由宇くんは、最高のパートナーだよ」 「健人さん……!」  由宇は、すぐに健人の胸に飛び込んでいた。

ともだちにシェアしよう!