118 / 256
2
オーダーした飲み物が運ばれ、ウエイターがその場を離れると、健人は瑞紀に問いかけた。
「どうしたの? 改まって、会って話がしたい、なんて」
「うん。実は僕、引退するんだ」
「えぇっ!?」
健人は驚き、由宇は目を円くした。
「6月のレース『スター優駿』を最後に、ね」
瑞紀が、競馬の騎手になったことは、健人から聞いている、由宇だ。
しかもそれが、二人が別れた原因となっている。
由宇もまた、瑞紀に問いかけずにはいられなかった。
「瑞紀さんは、健人さんと同じ大学に進めるくらいに、成績優秀だったと聞いています」
だが彼は進学を拒んで、ジョッキーへの道を選んだのだ。
女性だからというだけで、周囲に反対されて阻まれた、母の夢を引き継ぎたい、と。
進路は違うが交際は続けたい、と願う健人をも、振り切った。
騎手免許を取得するためには、競馬学校に入学しなくてはならない。
倍率が約10~20倍と、非常に難易度の高い狭き門だ。
合格するには、健人との恋を犠牲にするほどの覚悟が、瑞紀には必要だったのだ。
ともだちにシェアしよう!

