119 / 256
3
瑞紀は、優秀な騎手だった。
だが、なかなか勝てない。
2着、3着はとれても、1着が獲れないのだ。
「僕は、最後の直線が苦手なんだ」
何だか曖昧な笑みを浮かべ、瑞紀は語った。
ラストスパートとなると、騎手は馬を鼓舞するために、鞭を入れる。
1回のレースで10回以上鞭を使用すると、制裁の対象となるので、やたらとは振るわない。
しかしやはり、最後の直線には優勝を狙って、ジョッキーは何度も馬に鞭を入れるのだ。
「鞭は、それほど痛くないような造りになってるんだけど。それでも、馬が可哀想で」
瑞紀は、スパートの合図に、1回だけ鞭を入れる。
後は手綱で、馬に追い出しを掛けるのが、彼のセオリーになっている。
「馬主さんや調教師さんから、何度も注意を受けたし、叱られたよ」
「やたらと鞭を入れないのは、瑞紀くんの優しさの表れだな」
「でもそれは、勝負の世界ではやっぱり致命的なんだ」
悩んでいるところに、今は離島で在来馬の保護活動をしている恋人から、誘いを受けた。
瑞紀も騎手を辞めて、一緒に島に住まないか、と。
ともだちにシェアしよう!

