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 瑞紀は、優秀な騎手だった。  だが、なかなか勝てない。  2着、3着はとれても、1着が獲れないのだ。 「僕は、最後の直線が苦手なんだ」  何だか曖昧な笑みを浮かべ、瑞紀は語った。  ラストスパートとなると、騎手は馬を鼓舞するために、鞭を入れる。  1回のレースで10回以上鞭を使用すると、制裁の対象となるので、やたらとは振るわない。  しかしやはり、最後の直線には優勝を狙って、ジョッキーは何度も馬に鞭を入れるのだ。 「鞭は、それほど痛くないような造りになってるんだけど。それでも、馬が可哀想で」  瑞紀は、スパートの合図に、1回だけ鞭を入れる。  後は手綱で、馬に追い出しを掛けるのが、彼のセオリーになっている。 「馬主さんや調教師さんから、何度も注意を受けたし、叱られたよ」 「やたらと鞭を入れないのは、瑞紀くんの優しさの表れだな」 「でもそれは、勝負の世界ではやっぱり致命的なんだ」  悩んでいるところに、今は離島で在来馬の保護活動をしている恋人から、誘いを受けた。  瑞紀も騎手を辞めて、一緒に島に住まないか、と。

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