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由宇は簡潔に、健人が高橋と競馬で勝負をするいきさつについて、説明した。
絶対に、勝ちに行きたい。
そう、強く願っていたはずの由宇。
そんな彼が、瑞紀のラストランに賭けるつもりになっているのだ。
「僕の引退は『スター優駿』の、最終レース。ブルーフェニックスに、騎乗するよ」
「ありがとうございます」
「でも、勝てないかもよ? 僕は、鞭を入れない人間だから」
「いいんです、それでも。瑞紀さんは、最後まで瑞紀さんらしいレースをしてください」
悔いの無い、ラストランをしてください。
由宇は、瑞紀を励ました。
「実を言えば。あなたが騎乗する馬は、調べれば解ることなんです」
競走馬の騎手である瑞紀のデータは、地方競馬の協会に登録されている。
そこに侵入して情報を得るなど、由宇には簡単だ。
だが、そうしなかった。
「瑞紀さん、言いましたよね。健人さんに」
『健人くんには、今まで支えてもらったから。ちゃんと会って伝えたかったんだ』
メッセージだけではなく、顔を合わせて伝えたい。
由宇は瑞紀から、まごころを学んでいた。
そして、そんな瑞紀の個人情報を、勝手に盗み見るのは悪い、と感じたのだ。
健人がいくら言っても治らなかった、由宇の癖が改善された。
それは、劇的な変化だった。
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