126 / 256
5
「ねえ、由宇くん。結婚とか、考えたことある?」
「結婚とは、配偶者と呼ばれる人々の間の、文化的、もしくは法的に認められた繋がりです」
「いや、あの。そういう意味じゃなくって……」
ひとつ咳をし、健人は大切な言葉を口にした。
「私と、結婚してくれないかな」
「えっ?」
「君と、結婚したいんだ」
「待ってください、健人さん。自分が何を言ってるか、解ってますか?」
ヒトとアンドロイドが、結婚するだなんて!
ハイテクの塊である由宇が、意外にも古風なことを言ってきた。
しかし健人は、怯まなかった。
「確かに私は、君と違って無知で愚かなヒトの一個人に過ぎない。でも、愛しているんだ」
「僕と。アンドロイドと結婚なんかしたら、世間に奇異の目で見られますよ!」
「かもしれない。だけど、そんな目で見ない人を、僕はちゃんと知ってる」
「誰ですか?」
「羽田くん」
「あの、妙に明るい人ですか……」
社員旅行で、由宇は羽田に会っている。
お調子者で軽いノリの、健人の部下。
そして、すぐにアンドロイドである由宇を受け入れた男だ。
『良い、ッスね! 最近じゃ、アンドロイドと結婚する人もいるし!』
ためらいもせずに、健人にそう返したこともある。
しかし、今一つ由宇の表情は晴れなかった。
健人からのプロポーズを、素直に喜べないでいた。
ともだちにシェアしよう!

