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第二十六章 乃亜の存在
私と、結婚してくれないかな。
そんな健人からのプロポーズは、この上なく嬉しいものだった。
しかし由宇は、自分の幸福に舞い上がる前に、パートナーになる健人を案じた。
羽田の言うように、アンドロイドと結婚した先駆者たちは、世界中にいる。
そして彼ら彼女らは、みな幸せに暮らしている……とはいかなかった。
「恵まれた境遇にあるのは、ごく少数です。ほとんどが、悲惨な状態に陥っています」
隣近所から白い目で見られ、口から出まかせの悪い噂をささやかれる。
いや、そんな狭い範囲だけで収まるはずがない。
情報網の発達した現代社会では、隠し撮りされた画像や動画が、SNSなどに投稿される。
マスコミが、二人のプライベートに土足で踏み込み、日常をかき回す。
もちろん擁護する声も上がっているが、その10倍もの誹謗中傷が横行する。
『私たちは、ただ静かに。一緒に暮らしたかっただけなのに』
そんな哀しい言葉を残し、自ら命を絶つ者さえ現れ始めていた。
「僕は、健人さんに不幸になって欲しくありません」
「不幸になる、とは限らないじゃないか」
「生物として、普通じゃないですよ!? 機械と結婚するなんて!」
ついに由宇は、大粒の涙をぽろぽろとこぼしてしまった。
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