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静かな時間が、流れている
便箋が、わずかだが震えている。
由宇のわななきが、伝わっているのだ。
健人は、彼の心を乱さないように、小さな声で言った。
「君の、前のユーザーさんからの手紙だと思うんだ。藤崎 圭吾さん、かな?」
送り状に書かれていた、人名。
それだけが、由宇の過去を知る手がかりなのだ。
「彼にも、頼まれちゃったからね。私は、由宇くんを絶対に幸せにしてみせる」
しかし由宇は、かすかにうなだれ、首を横に振った。
「由宇くん……」
「ごめんなさい、健人さん。違うんです」
「違うって、何が?」
「藤崎さんは、前のユーザーではありません。そして、この手紙を書いてくれたのは、別の人です」
うつむいていた顔を上げ、由宇は健人に告白した。
「手紙を託したのは、乃亜(のあ)さん。僕を造った科学者です」
「何だって」
「そして、藤崎さんは、乃亜さんの研究チームのチーフアシスタントなんです」
思わぬところから、由宇の出生の秘密が解き明かされ始めた。
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