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健人の心情を感じ取ったのか、由宇は彼の手に便箋を差し返してきた。
「これ以上は、健人さんが聞きたくないのなら、僕は話しません」
この手紙も、返します。
そう、由宇は言うのだ。
健人はその姿に、胸が痛んだ。
(可哀想に。重い秘密を抱えて、由宇くんはこれまで過ごしてきたんだ)
そして、手紙ごと由宇の小さな手を取った。
「話してくれないかな。秘密は、二人で分け合った方が、軽くなるよ」
「健人さん」
「乃亜さんが、どんな境遇の人物だって、私は受け入れる覚悟があるよ」
由宇くんという存在を生み出してくれた人なら、私は彼に感謝しかない。
そんな健人に、由宇は涙を流した。
今度は、嬉し涙だ。
これほどまでに、深く強く。
僕を想ってくれていたんだ、健人さんは!
「立ち話もなんだから、ちょっと座ろうか」
「いえ、少し時間をください」
とても大切なことなので、仕切り直してきちんと伝えたい。
由宇は、そう望んだ。
「解った。じゃあ、由宇くんが話す気になってからでいいよ」
涙をぬぐい、由宇はうなずいた。
変わらない健人の笑顔と優しさを、受け取った。
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