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誰も、知らない。
知られては、いけない。
乃亜は、まるで籠の中の鳥なのだ。
「ですから乃亜さんは、高い知能を持ちながら、何も知ることができずにいるんです」
「知ることができない、って?」
「ヒトは普通、体験を通して、多くのことを学びます。例えば、乗馬もそうです」
健人は、以前に由宇と観光牧場で遊んだことを思い出した。
あの時、一緒に馬と遊んだっけ。
「あ、もしかして。馬の温かさとか、匂いとか。あと、乗って揺られる感覚とか?」
由宇は、うなずいた。
彼は今、健人の方を向いている。
健人もまた、いつの間にか由宇の方を向いていた。
二人で、顔を合わせずにはいられなかった。
それほど、乃亜の秘密は過酷だった。
「乃亜さんは、次第にそれらを望むようになりました。触れてみたい、嗅いでみたい、感じてみたい、と」
「そういった外の情報は、シャットアウトされてるんじゃないのかい?」
「あの人の手に掛かれば、どんなセキュリティも無駄です」
「その辺は、由宇くんと同じだね」
健人は何気なく、冗談交じりで言ったのだ。
しかしそれには、再び驚きの告白が返ってきた。
「乃亜さんは、自分自身を素体にして、僕を造りましたから」
「え……えぇっ!?」
「公の研究とは別に、乃亜さんは自分そっくりのアンドロイドを、こっそり造ったんです」
「それが由宇くん、か……」
そして乃亜は、アシスタントの藤崎 圭吾の手を借りて、由宇を中古品と称しフリマサイトへ出品した。
由宇を通して、外の世界を知るために。
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