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第二十八章 運命の日は雨模様
その日の天気は、曇り空だった。
時折、薄い光が差すが、梅雨に入った空から雨粒が落ちてくる方が多かった。
それでも、健人と由宇は外へ出かけた。
行き先は、競馬場。
いよいよ、美咲たちとの勝負の舞台へ乗り込む日が来たのだ。
同時に、健人の元・恋人である瑞紀の、引退レースの日でもある。
由宇は、そのことについて、健人に訊ねた。
「よかったんですか? 瑞紀さんに電話しなくても」
自分に気を遣って、連絡しなかったのではないか、と考えていた、由宇。
しかし健人は、さっぱりとした表情だった。
「瑞紀くんに、がんばれ、って言うのは、もう私の役目じゃないんだ」
ラストラン、悔いの無いようにね。
そういった励ましは、きっと離島で彼を待つ、今の恋人が伝えたことだろう。
「レースが終わってから、お疲れ様、って労おうと思ってるよ」
「さすが、健人さん」
瑞紀はすでに昨日から、調整ルームへ入っているはずだ。
体調管理をしたり、モチベーションを高めたり。
また、不正行為を避けるため、外部との通信を制限されている。
今の瑞紀は、ただ自分と向き合い、馬と語り合うだけなのだ。
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