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競馬場へ着いた健人と由宇は、美咲と高橋から連絡を受けていた、プレミアムルームへと進んだ。
スタンド3階に設けられた、エレガントで高級感のある観覧席だ。
「バルコニーへ出ると、走路が一望できるんだ。白熱したレースを間近で観戦できる、というわけさ」
男同士の一騎打ちには、こういった場がふさわしい!
高価なボックス指定席を用意し、余裕たっぷりに説明する大輝は、自信にあふれている。
しかし、美咲はそんな彼を横目で見た後、由宇に手招きした。
「由宇くん、ちょっといい?」
「何でしょうか、美咲さん」
部屋の隅で、美咲は由宇に愚痴をこぼした。
「大輝ったら、こんな高い部屋を用意しちゃってぇ。絶対に勝つから心配いらない、って言うのぉ」
「勝負は、終わってみないと解らないものです」
「でしょぉ? だからね、もし大輝が負けたら、部屋代を割り勘にしてくれるぅ?」
ごめんね、と両手を合わせて拝む仕草を見せる、美咲だ。
由宇は、この申し出を不思議に感じた。
美咲なら、全額を健人に払わせるようなことを、平気でするはずだ。
「それは構いませんが。なぜ、割り勘なんですか? 全額負担でもいいんですよ?」
「全額は、さすがに遠慮しちゃう、かな」
「なぜです?」
「だってぇ。由宇くんとは、友達なんだもん」
友達から金を巻き上げるような真似はできない、と美咲は答えた。
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