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由宇は、レースを観戦しながら、瑞紀を応援していた。
その隣には、健人……ではなく、美咲がいる。
競馬を観るのは初めてだ、という彼女は、はしゃぎながら由宇と一緒に楽しんでいた。
「サラブレッド、って綺麗よねぇ。見蕩れちゃう」
「瑞紀さんの恋人は、離島で在来馬の保護活動をしているそうですよ」
「ざいらいば? 何、それぇ」
「この国に、古くから生育している固有の馬です。今では、すごく数が減っています」
「由宇くん、頭いい!」
こんな感じで、すっかり仲良しの二人だ。
それを微笑ましく見ていた健人だったが、ふと大輝に話しかけられた。
「今、第7レース。いよいよ、近づいて来たな……フフフ……」
「そうですね。もう、18時か。お腹がすきませんか? 食事をオーダーしましょうか」
「違う、そうじゃない!」
勝負は、最後の第12レース。
それに、健人と大輝は、3億を張った大勝負を行うのだ。
もちろん、公式の賭けではない。
他の観戦者と一緒に、そんな大金を張ったりすると、オッズが滅茶苦茶になってしまう。
「俺と長谷川さんとの、サシの取り合い! 3億を賭けた、大ギャンブルが始まる、ってこと!」
「あ、そうでした! すみません!」
大輝には申し訳ないが、健人は彼との勝負を、ぽかんと忘れていた。
それよりも、ずっと気になることがあったからだ。
(瑞紀くん、頑張れ……!)
悔いの無い、レースを。
有終の美を飾るレースを、してくれ。
由宇と共に、そう願っていた。
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