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第二十九章 運命のレース開幕!

 さすがの健人も、緊張してきた。  由宇も、今は美咲ではなく彼の隣に座っている。  いよいよ、第12レースが始まるのだ。  今日の『スター優駿』最後のレース。  美咲・大輝ペアと、1億を賭けた大ギャンブル。  そして、健人の親友である騎手・瑞紀の引退ラストランなのだ。  瑞紀はこれまでの11レースで、ほぼすべて5着以内の入着を果たしている。  しかし、やはり1着が獲れないでいた。  彼は健人の同級生で、30歳だ。  すでに、ベテランの域。  しかし、若手の勢いに飲まれ、古参の技巧に阻まれ、苦戦していた。 『瑞紀さん。最後の直線で、馬に鞭を入れたらどうですか?』 『そうだ、そうだ。馬に遠慮すんな。もっと追い込み、かけろ』  若手もベテランも、そう言って瑞紀を鼓舞する。  みんな、瑞紀が今日のレースを最後に、引退することを知っているのだ。  彼に1着を獲らせてあげたい、と思うからこそのアドバイスだった。  それでも瑞紀は、鞭を使って馬に追い込みを掛けなかった。 『ありがとう。でも、これが僕の流儀だから』  そう答えて、己を貫いた。

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