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「ナンカイイーグル、か……」
そう、ポツリとつぶやいたのは、ラストランを直前に控えた、騎手の瑞紀だ。
当初は、彼が騎乗することになっていた、ナンカイイーグル。
デビュー前から、この馬の世話を焼いていたのは、瑞紀だった。
可愛がり、レースコースを走れるように教育したのも、彼だった。
これは良い馬に当たった、と胸を弾ませたものだ。
『ナンカイイーグルと一緒だったら、一着を獲れるかもしれない!』
そんな夢も、描いた瑞紀。
ところが、デビュー戦を間近に控えた頃、調教師から乗り役の交代を命じられたのだ。
新進気鋭の若手ホープに、ナンカイイーグルは持って行かれた。
『彼の父親は有名ジョッキーだから、話題性があるんだよ』
『競馬界を活気づかせる、またとないチャンスだ!』
こんな理由から、瑞紀が築いてきたナンカイイーグルとの未来は、絶たれてしまった。
これもまた、彼が引退を決意した理由の一つだった。
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