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瑞紀のこぼした独り言に、フンと大きな鼻息を吐いた者がいる。
ブルーフェニックスだ。
俺に騎乗しておきながら、他の馬の名を呟くなんて!
彼が、まるでそう抗議しているかのように、瑞紀には思えた。
「ごめん、ごめん。君は、最高のパートナーだよ」
瑞紀は、ブルーフェニックスの首筋を撫でた。
「僕のラストランは、君に託した。一緒に、花道を駆け抜けようじゃないか!」
そして、いよいよゲートイン。
出走馬は、次々とスタート用のゲートに入った。
瑞紀は腹を決めて集中していたが、肝心のブルーフェニックスはレースが苦手だった。
公式のレースは、これが初めてのデビュー戦だ。
しかし、その練習ならば繰り返しやってきた。
思いきり走るのは、大好き。
だが、最後の直線は、大嫌い。
そんな、ブルーフェニックスだ。
自由気ままに駆けたいのに、何度も鞭を入れられ、追い立てられる。
痛い目に遭うのが、イヤなのだ。
痛いから、イヤだから、直線に入ると末脚が鈍ってしまう。
走る気が失せ、スピードが落ちてしまうのだ。
ブルーフェニックスは、そういった性格のせいで、単純に駄馬の烙印を押されていた。
しかし、瑞紀だけは違う。
「僕は最後の直線で、何度も鞭を振るうことはしないよ。二人で一緒に、楽しく走ろう」
優しく、彼にそう語り掛けていた。
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