145 / 256

4

 瑞紀のこぼした独り言に、フンと大きな鼻息を吐いた者がいる。  ブルーフェニックスだ。  俺に騎乗しておきながら、他の馬の名を呟くなんて!  彼が、まるでそう抗議しているかのように、瑞紀には思えた。 「ごめん、ごめん。君は、最高のパートナーだよ」  瑞紀は、ブルーフェニックスの首筋を撫でた。 「僕のラストランは、君に託した。一緒に、花道を駆け抜けようじゃないか!」  そして、いよいよゲートイン。  出走馬は、次々とスタート用のゲートに入った。  瑞紀は腹を決めて集中していたが、肝心のブルーフェニックスはレースが苦手だった。  公式のレースは、これが初めてのデビュー戦だ。  しかし、その練習ならば繰り返しやってきた。  思いきり走るのは、大好き。  だが、最後の直線は、大嫌い。  そんな、ブルーフェニックスだ。  自由気ままに駆けたいのに、何度も鞭を入れられ、追い立てられる。  痛い目に遭うのが、イヤなのだ。  痛いから、イヤだから、直線に入ると末脚が鈍ってしまう。  走る気が失せ、スピードが落ちてしまうのだ。  ブルーフェニックスは、そういった性格のせいで、単純に駄馬の烙印を押されていた。  しかし、瑞紀だけは違う。 「僕は最後の直線で、何度も鞭を振るうことはしないよ。二人で一緒に、楽しく走ろう」  優しく、彼にそう語り掛けていた。

ともだちにシェアしよう!