146 / 256
5
『本日の最終レース、スタートしました! 各馬一斉に、きれいなスタートです!』
実況アナウンサーの声が、競馬場に響き渡った。
健人と由宇、そして大輝と美咲は、今は豪華なボックス指定席の外へ出ている。
バルコニーに立ち、双眼鏡を手にしてコースを見守っていた。
いや、見守る、などと落ち着いたものではない。
各馬が突っ込み、第1コーナーに殺到する。
熾烈な先頭争いを、繰り広げる。
そうなるともう、まだまだ序盤というのに、四人はそれぞれ大声を上げていた。
「瑞紀くん、頑張ってー!」
「馬の神様―!」
「ナンカイイーグル、行けー!」
「1億ぅー!」
叫んでいるうちに、塊状態だった馬たちがほどけてきた。
『先頭に立つのは、ナンカイイーグル! 続いて、バビロンミナミ、ハッピィサカモト!』
実況の声に、大輝はいったん双眼鏡から目を離して、健人の方を見た。
「やはり、ナンカイイーグルは強い。上位3頭のうち、2頭はこちらの推し馬だ!」
「まだ! まだまだ、勝負はこれからですよ!」
健人は強がったが、瑞紀の駆るブルーフェニックスは、内からのなだれ込みに押し返されてしまった。
6馬中5着で、1コーナーを通過だ。
(どうしたんだ、瑞紀くん……!)
これで、最後なのに。
引退なのに。
ラストランなのに!
そこへ、由宇の声が響いた。
「お願い、馬の神様! 瑞紀さんを、勝たせて! 一着を、贈ってあげて!」
莫大な量のデータも、毎秒120京6000兆回の計算速度も、全部かなぐり捨てて、ただ一心に祈っている。
(ありがとう、由宇くん!)
健人の胸は、熱くなった。
そしてレース展開も、どんどん白熱していった。
ともだちにシェアしよう!

