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『本日の最終レース、スタートしました! 各馬一斉に、きれいなスタートです!』  実況アナウンサーの声が、競馬場に響き渡った。  健人と由宇、そして大輝と美咲は、今は豪華なボックス指定席の外へ出ている。  バルコニーに立ち、双眼鏡を手にしてコースを見守っていた。  いや、見守る、などと落ち着いたものではない。  各馬が突っ込み、第1コーナーに殺到する。  熾烈な先頭争いを、繰り広げる。  そうなるともう、まだまだ序盤というのに、四人はそれぞれ大声を上げていた。 「瑞紀くん、頑張ってー!」 「馬の神様―!」 「ナンカイイーグル、行けー!」 「1億ぅー!」  叫んでいるうちに、塊状態だった馬たちがほどけてきた。 『先頭に立つのは、ナンカイイーグル! 続いて、バビロンミナミ、ハッピィサカモト!』  実況の声に、大輝はいったん双眼鏡から目を離して、健人の方を見た。 「やはり、ナンカイイーグルは強い。上位3頭のうち、2頭はこちらの推し馬だ!」 「まだ! まだまだ、勝負はこれからですよ!」  健人は強がったが、瑞紀の駆るブルーフェニックスは、内からのなだれ込みに押し返されてしまった。  6馬中5着で、1コーナーを通過だ。 (どうしたんだ、瑞紀くん……!)  これで、最後なのに。  引退なのに。  ラストランなのに!  そこへ、由宇の声が響いた。 「お願い、馬の神様! 瑞紀さんを、勝たせて! 一着を、贈ってあげて!」  莫大な量のデータも、毎秒120京6000兆回の計算速度も、全部かなぐり捨てて、ただ一心に祈っている。 (ありがとう、由宇くん!)  健人の胸は、熱くなった。  そしてレース展開も、どんどん白熱していった。

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