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「瑞紀さん、がんばって! あぁ、馬の神様! どうにかしてくださいー!」  声を限りに叫ぶ由宇に、健人は驚いていた。  データに基づいた数値で判断し、確率で決定するAIの由宇が、神頼みをしているのだ。  単純に、それも彼にプログラムされた機能なのかもしれない。  だが健人は、そうは思わなかった。 (由宇くんは、引退レースに臨む騎手・瑞紀くんと出会い、また一つ成長したんだ)  ヒトのいだく希望や願い、絶望や落胆。  諦めから這い上がり、新たな道へと歩み始める、勇気。  それらを、由宇は瑞紀から学習したのだと考えていた。 「瑞紀くん! しっかりー! 馬の神様、お願いしますー!」  だから健人は、由宇と一緒に神に祈り、瑞紀に声援を送った。  声を張り、手に汗握り、応援していた。 『さぁ、本日最後のスター・優駿。レースは向こう正面、1000mを通過』 『中盤は、互いに牽制し合っているのか、ペースは上がらない』 『スローペースの展開です。トップは変わらず、ナンカイイーグル!』  由宇と健人の祈りの中、レースは刻々と進む。  瑞紀の騎乗しているブルーフェニックスは、未だ6頭中5番目を走っていた。

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