150 / 256

4

 先頭集団の3頭は、依然としてナンカイイーグル、バビロンミナミ、ハッピィサカモトだった。  ナンカイイーグルの若き騎手は、気分良く馬を走らせていた。 (さすが、GIレースで活躍した親を持つ馬だ。全く足色が鈍らない!)  元は、瑞紀が乗る予定だった、ナンカイイーグル。  馬主や調教師などの、上部組織の思惑で、話題性のある彼にその権利は移されてしまった。  だが、それを気に留めることなく、レースを闘う男だ。 (大人の事情は知らないが、俺はこいつと勝たせてもらうぜ!)  そして、デビューのこの年に、新人最多勝をマークする。  来年は、GIを制覇。 (ゆくゆくは、競馬界のレジェンドに成り上がってやる!)  馬上で壮大な野望を抱いている新人もいれば、虎視眈々と仕掛けのタイミングをうかがうベテランもいた。  瑞紀だ。  これで、引退。  泣いても笑っても、最後になるレース。  それでも彼は冷静に、馬の呼吸を計りながら、左回りのコースを走っていた。 (コーナーで、馬が外に膨らむ動きを利用して……ここだ!)  頼むよ、ブルーフェニックス!  そんな願いを込めて、瑞紀はこのレース初めての鞭を使った。  ただそれは、合図に過ぎない。  馬を傷めないように、軽く振るった。

ともだちにシェアしよう!