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 ブルーフェニックスは、もともとヤンチャな仔馬だった。  なかなかヒトに慣れず、鞍を付けられることを嫌がり、騎乗訓練はいつも大荒れ。  そして、人馬のコミュニケーションが取れないままに、競走馬としてのトレーニングに入ってしまったのだ。 (ブルーフェニックスは、これまで強制的に走らされてばかりだった)  瑞紀が思うのは、そんな馬の心の痛みだった。  ブルーフェニックスとの付き合いは、短い期間しかなかったが、瑞紀は彼を可愛がった。  レースで活躍できるように、レースで勝てるように。  それは確かに、大切だ。  しかし瑞紀は、馬の体調などを考慮して、心軽やかに走れるようにと気を配った。  もちろん、鞭で叩くなど一度たりとも無かった。  信頼関係を築くことを第一に、触れ合ったのだ。 『あ、ここで……割り込むように、ブルーフェニックス! 先頭集団へ!』 『3頭並走のトップ集団を切り崩し、ブルーフェニックスが来ました!』 『仕掛ける、ブルーフェニックス! 前へ、前へ……ペースが上がります!』  各馬、高速で4コーナーへなだれ込んでいく。 「健人さん……!」 「由宇くん!」  二人は、両手をしっかりと繋ぎ合って、最後の直線を見守った。

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