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 レースは、最高のクライマックスを迎えていた。  一番人気の、ナンカイイーグル。  かたや無名の、いや、悪名高き、ブルーフェニックス。  競馬ファンたちは皆、この暴れ馬は完走すらできないとさえ、思っていた。  それがどうだ。  堂々たる走りで、先頭を走っているのだ。 『一騎打ち! もう、この二頭に間違いない!』 『ほかの馬は、はるか後方。さぁ、どっちだ!?』 『フェニックスか! イーグルか!』  大輝は固く瞼を閉じて、ただ推し馬の名を唱えるだけだった。 「イーグル! 頼む、頼む、イーグル。イーグルぅ……頼む……ッ。うぅうぅうぅ」 「大輝! ちゃんと目を開いて、現実を直視しなさいよ!」  幼稚園の頃から、ちっとも成長してないんだから!  美咲は、膝をついて座り込んでいる大輝を、蹴飛ばした。 『差は、半馬身! ゴール目前! イーグルが迫る!』 『身をよじるようにして、フェニックス粘る!』 『差が詰まらない! フェニックス、イーグル、譲らず並走!』  そして最後に、ブルーフェニックスの身が翻って、伸びた。

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