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『勝ったのは、フェニックス! ブルーフェニックス!』  轟き響き渡る歓声の中、瑞紀は勢いよく、片腕を天に向かって突き上げた。 「やった……! 1着だよ、ブルーフェニックス。おめでとう!」  そして、ありがとう。  瑞紀の、もう片方の腕は、ブルーフェニックスの首筋を優しく撫でた。 「僕の引退レース。最高の形で、終えられたよ……」 『2着に、ナンカイイーグル。ブルーフェニックス、凌ぎました』 『イーグル、破れて悔いなし。よく闘いました!』 『未来のGⅠホースたちの、誕生です!』  喜びに興奮して跳ねまわっていた由宇が、今はただ、健人にぴったりと寄り添っている。  健人は、そんな彼を、何も言わずに軽く抱いた。  二人のぬくもりがひとつになった頃、由宇はそっとつぶやいた。 「いました。馬の神様」 「そうだね」 「瑞紀さん、嬉しそう」 「きっと、ブルーフェニックスも喜んでるよ」  ブルーフェニックスの秘められた能力が、ここに開花した。  彼が所属する牧場や、厩のパソコンには、芳しいデータは一切なかった。  ただ我がままな、困った馬。  このレースでも、全く期待されていなかったのだ。 「それが、瑞紀さんとの出会いで、大きく変わったんですね」 「うん。人馬一体で、一流になったんだ」 「データで解析できないことが、起こるなんて」  しかし、そんな由宇の表情は明るかった。  生き物の持つ無限の可能性に、感動していた。

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