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『こんなものまで、用意してたのに……』 『何それ。もしかして、指輪?』 『勝って華々しく、美咲にプロポーズするつもりだったのに』 『大輝って、幼稚園の頃から、そういうシチュエーションにこだわるよね』  プンプンと、美咲は頬を膨らませて怒った風の表情を作った。  腕組みし、大輝を見下ろしていたが、彼はなかなか起き上がらない。  とうとう美咲は腰を落とし、彼の背中を軽く叩いた。 『それで? 負けたから、もう私にプロポーズしないのかなぁ?』 『美咲は、負け犬は嫌いだから。日を改めて……』 『一回や二回負けたからって、何よぅ。この先、選挙で何回でも落選するのよ?』 『そ、そんな言い方は無いだろう』 『その負け犬を慰められるのは、私以外にない、ってこと!』  大輝は、ようやく顔を上げて、美咲を見た。  ジュエリーボックスからリングを出し、震える指で美咲の手を取った。  彼の手から、彼女の薬指へと指輪は移り、二人は照れくさそうに笑った。  

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