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もう、何度目の行為だろう。
健人さんと、こうやって体で愛し合うのは、何回目?
それは、過去のメモリーを検索すれば、すぐに解ることだ。
しかし由宇は、そうしなかった。
何度目か、なんてどうでもいい。
大切なのは、今、この瞬間。
健人を体内に深く受け入れ、揺さぶられながら、由宇はそっと薄目を開けた。
そこには、蕩けそうな表情があった。
(健人さんの、こんな顔……初めて見た)
いつも彼は、彫りの深い凛々しい面立ちに、優しいまなざしをしている。
それが崩れて、愛欲を剥き出しにしているのだ。
そして、彼をそうさせているのは自分なのだと気づいた時、由宇の体いっぱいに歓喜が巡った。
「あ! ふぅ、あぁ! はぁ、あぁあ!」
「由宇、くん……ッ」
ほとんど同時に健人も弾け、由宇の体には歓喜だけでなく、情愛の証もたっぷりと巡った。
「んぁ、う。はぁ、はぁ、うぅ。あぁ、あぅ……」
「由宇。由宇、くん……」
二人で強く抱き合い、熱を、汗を、鼓動を溶け合わせた。
荒い呼吸が整った頃、由宇はポツリとつぶやいた。
「さっき、どさくさに紛れて『由宇』って呼んだでしょ?」
「ごめん……ごめんね……」
まだ夢見心地の、健人。
由宇は、彼が明日になれば、何事も無かったように『由宇くん』と言うと解っていた。
でも、今は。
今だけは、そんな呼び捨てが嬉しい。
「ね。もう一度、呼んでください」
「由宇。由宇……」
もう半ば眠りに落ちそうな健人に、由宇は頬ずりした。
伸び始めている粗い髭が、少しだけ痛かった。
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