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「ただ、結婚となると。そうなると、やっぱり乃亜さんから許可を得なきゃ」 「どうしてですか?」 「うん。彼は、手紙に書いていたよね」 『この子を選んでくれて、ありがとう。  名前は、由宇(ゆう)といいます。  どうか、幸せにしてあげてください』  由宇に同封されていた、製作者・乃亜からの手紙。  健人は、それを心に刻み込んでいた。 「私との結婚は、果たして由宇くんの幸せなのか。確認したいんだ」  由宇の話によると、乃亜は国の特殊機関で研究に没頭させられている、という。  そんな彼に会うとなると、それなりに準備が必要だろう。  侵入する手立てに関わる、物理的な準備。  さらに、挑むための心の準備。  そして、それらを整えるには、何日かかるか知れないのだ。 「だから私は退社して、自由になる時間を確保したいんだ」 「僕は……不安です。乃亜さんに、会うことが」  自分の鼻先に当てられた健人の指を、由宇は両手でそっと包んだ。  そして、その指を唇へ持っていき、軽く歯を立てた。  瞼を伏せ、表情は暗い。 「由宇くん。そんなに、嫌なの?」 「僕は、乃亜さんにも幸せになって欲しい。だけど、あの人の前に姿を現すと……」  彼は、幸福を掴んでいる由宇に嫉妬して、怒るのではないだろうか。  逆上し、メモリを削除してしまうかもしれない。  健人と過ごした素晴らしい日々を、消されてしまうのではないか。  由宇は、細かく震えて怯えていた。

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