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由宇が、乃亜の手によって初期化されてしまう。
健人との記憶を、全て消されてしまう。
そういった恐れは、健人の頭には全く無かった。
彼に言われて、ようやくその可能性に気付いたのだ。
しかし、だからと言って、健人は由宇と一緒になって不安がったりはしなかった。
ただ、彼の鼻の頭に、短いキスをした。
「そしたら、私はもう一度、由宇くんに恋をするよ」
「僕は、真面目に心配してるんですよ!」
恐怖に駆られ、涙目になっている由宇に、健人はもう一度キスをした。
今度は、唇に。
「安心して。私は、何度でも君に恋する自信がある」
「健人さん」
由宇は、一粒の涙をこぼした。
だが、その口元には笑みがある。
健人は、彼の髪を撫でながら、そして少しだけ照れながら、告白した。
「私はね、由宇くんとは『運命のつがい』だと思ってるんだ」
運命のつがい。
アルファとオメガの間に伝わる、言葉だ。
それは古くから、そして現代の今なお語られる、魔法の言葉。
ロマンチックだが、それゆえに怪しまれている。
迷信だ、とか、都市伝説だ、とか。
(そんな言葉を、由宇くんに贈ってもよかったのか?)
なにせ、彼は知識と情報でできたAIなのだ。
笑われるかもしれないな、と健人は覚悟した。
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