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第三十五章 乃亜と圭吾

 突然、健人と由宇の身に起きた、大きな事件。  それは、由宇の製作者である乃亜と、彼のアシスタント・圭吾からのSOSだった。  水面に石を放り込まれたように、健人と乃亜の心は波立った。 「乃亜さんと藤崎さんが、何か困ってる。手を差し伸べて、助けなきゃ!」 「はい!」 「よし! じゃあ、まずは!」 「はい!」 「シャワーを浴びて、朝食だ!」 「はい?」  すぐに日常へ戻ってしまった健人に、由宇は呆れた。  しかし健人は、いい笑顔だ。 「腹が減っては戦はできぬ、と言うよ。食べたら、作戦と計画を練ろう」 「解りました」 「由宇くん、先にシャワー使って。私は、食事の用意をしておくよ」 「ありがとう、健人さん」  バスルームへ向かう由宇の背中を見送りながら、健人は表情を引き締めた。 (おそらく、政府を相手にすることになるな)  乃亜の存在は、この国の最高機密だ。  一般社会の庶民である自分が、そんな彼に接触できるのか?  下手をすれば、闇から闇へと葬られるかもしれない。 「でも、やるしかない」  胸に思いをたぎらせ、健人は自然とこぶしを握っていた。

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