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   特別研究所内の回廊を歩きながら、由宇は乃亜について健人に語った。 「乃亜さんは、生まれた時からこの場所で、超天才と評価されてきました」  褒められ、讃えられ、甘やかされて育った、乃亜。  そんな彼は、10歳で研究チームを任されると、支配者として振舞った。  自分より年上のアシスタントたちを、従者のように扱ったのだ。 『お粗末なレポートだね。君、それでもギフテッドのアルファ?』 『一週間もあったのに、論文一本書けないなんて。この、無能!』 『これくらいの数式、ちゃんと暗記しておきなよ。頭悪いなぁ!』  乃亜のパワハラに、アシスタントたちは非常に気を悪くした。  だが彼は、自分らより優れた頭脳を持つ存在だ。  上長に訴えても、それくらい我慢しろ、と取り合ってくれない。  仕方なく、陰口を叩いたり、愚痴をこぼしたりするくらいしか、術はなかった。 「そんな乃亜さんを、真正面から包み込むことができたのは、ただ一人」 「圭吾さん、だね」 「はい。圭吾さんには、弟がいて。年下の我がままには、慣れているのです」 「かなり強烈な、我がままだけど?」  乃亜の苛烈な言動すら、圭吾にとっては愛すべき個性。  彼は、そんな懐の深い男だった。

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