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 圭吾の弟は、この二歳年上の兄に対して、強いコンプレックスを抱いていた。  第二性がアルファというだけでなく、天から授かった優秀な頭脳を持つ、ギフテッド。  ベータに生まれた弟は、そんな圭吾に反発した。  いや、圭吾だけではない。  両親に、圭吾の上の長男、次男。  そして姉にも、反抗した。 『皆みんな、圭吾兄ちゃんばっかり、ひいきにして可愛がってるんだ!』  学校での問題行動、近所への迷惑行為。  悪い友達を作り、非行に走ろうとしたこともあった。  誰もが彼に手を焼いていたが、圭吾だけは弟の言葉に耳を傾け、荒む心に寄り添ったのだ。  そんな兄のまごころをも、弟は偽善だと鼻で笑っていたが……。 「俺が親元を離れ、政府の研究機関で暮らす、と決まった時に、あいつは初めて泣いたんだ」 「ようやく、圭吾さんの存在の重みが、解ったんですね」 「そんなところかな。俺が12歳、弟が10歳の頃だった」  圭吾は、自分がいなくなれば、弟の心が安定するだろう、と考えたのだ。  健人と由宇は、乃亜の個人研究室内で、彼の言葉に耳を傾けていた。  いくつものセキュリティをかいくぐり、彼らは目的地へと侵入していた。

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