185 / 256
4
圭吾の弟は、この二歳年上の兄に対して、強いコンプレックスを抱いていた。
第二性がアルファというだけでなく、天から授かった優秀な頭脳を持つ、ギフテッド。
ベータに生まれた弟は、そんな圭吾に反発した。
いや、圭吾だけではない。
両親に、圭吾の上の長男、次男。
そして姉にも、反抗した。
『皆みんな、圭吾兄ちゃんばっかり、ひいきにして可愛がってるんだ!』
学校での問題行動、近所への迷惑行為。
悪い友達を作り、非行に走ろうとしたこともあった。
誰もが彼に手を焼いていたが、圭吾だけは弟の言葉に耳を傾け、荒む心に寄り添ったのだ。
そんな兄のまごころをも、弟は偽善だと鼻で笑っていたが……。
「俺が親元を離れ、政府の研究機関で暮らす、と決まった時に、あいつは初めて泣いたんだ」
「ようやく、圭吾さんの存在の重みが、解ったんですね」
「そんなところかな。俺が12歳、弟が10歳の頃だった」
圭吾は、自分がいなくなれば、弟の心が安定するだろう、と考えたのだ。
健人と由宇は、乃亜の個人研究室内で、彼の言葉に耳を傾けていた。
いくつものセキュリティをかいくぐり、彼らは目的地へと侵入していた。
ともだちにシェアしよう!

