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圭吾の研究施設行きが決まり、家族での送別会を開いた後、弟は泣いた。
唯一の理解者が、遠くへ行ってしまう。
どれほど自分が圭吾に甘えていたのか、思い知らされたのだ。
『俺はいなくなるけど、お父さんやお母さんをよろしく頼むよ』
『時々は、帰って来るんだろ?』
『解んないな。でも、家族の面会は受け入れてもらえるらしい』
『お、俺、会いに行くから。圭吾兄ちゃんに、絶対会いに行くからな!』
懐かしい思い出だ、と圭吾は軽く瞼を伏せた。
健人と由宇は、そんな彼の告白を、静かに聞いた。
「そして今度は、乃亜から引き離されそうとしているんだ」
圭吾は、形の良い額に手をやった。
それは、それだけは避けたい。
眉間に皺を寄せ、苦悩の表情だ。
彼は、目鼻立ちのくっきりした健人より、やや薄い顔立ちをしている。
体つきも細身で、いかにも科学者といった印象だ。
(だけど、由宇くんを使って外部との接触を図る策を考える、大胆さを持っているな)
健人は、圭吾をそう評価した。
首から下げた偽造IDカードも、彼の知性と行動力の表れだ。
圭吾が由宇にデータを送信し、それを元に健人が3Dプリンターで形にした。
そして、見事に数々の検問を突破したのだ。
俺は、乃亜と一緒に外の世界へ出たい。
圭吾の願いは、それだけだった。
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