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たった一秒で、特殊部隊に間合いを詰めた、アンドロイドたち。
彼らは、走った、のではない。
跳んだ、のだ。
乃亜たちと隊員たちとの距離は、30mほど離れていた。
人間の常識では、それほどの間隔があれば、走る。
しかしアンドロイドたちは、一回跳躍しただけで、ゼロ距離まで近づいたのだ。
その様子に、乃亜は満足げにうなずいた。
「僕が開発したんだ。甘く見てもらっちゃ、困るな」
「で、でも。これは、野球場の一塁から二塁くらいの距離が」
「健人さん。ゴリラなら、そのくらいひとっ跳びだよ」
「ゴリラ……ゴリラ、ねぇ……」
ずいぶんと、愛らしいゴリラがいたもんだ、と健人は唸った。
見た目は、まだ少年の初々しさを残した、ベビーフェイスだ。
体つきも細マッチョで、とてもゴリラの身体能力を持っているとは思えない。
「そこが狙い目、なんだね。乃亜さん」
「当たり。人間って、外見に惑わされがちだからね」
こいつはあまり強くなさそうだ、と油断させておいて、その隙に瞬殺する。
乃亜のアイデア、そしてそれを実際に形にする確かな能力に、健人は今更ながら驚いていた。
そして、こうも考えた。
「もしかして。いやまさか」
(由宇くんも、ああ見えて……ゴリラ?)
なるべく、ケンカしないように気を付けよう。
ゴリラの怪力で私を持ち上げ、投げ飛ばす由宇くん。
「怖い怖い」
しかし、そんな構図はここから脱出してからの話だ。
「投げ飛ばされても良いから、早く平穏な日常を取り戻したいよ」
四人みんなで。
いや、由宇くんの兄弟も含めて、賑やかに。
難関を突破した健人の心に、少しゆとりが芽生えていた。
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