234 / 256
3
ふう、と軽く息をつき、健人はスマホを握り直した。
わずかに、手汗で湿っている。
だが、言うだけのことは言った、と確かな手ごたえも感じていた。
「ありがとう、由宇くん。私に勇気をくれて」
「健人さん……」
「どうしたの?」
由宇は健人の大きな手のひらを握りしめたまま、涙をぽろぽろこぼしているのだ。
「僕、嬉しくて。健人さん、ありがとう。僕の、僕たちのこと、そこまで想ってくれて……」
気付くと、健人の周りには人の輪ができていた。
由宇や乃亜、圭吾だけでなく、美咲に大輝、そして全てのアンドロイドたちが、健人を囲んでいた。
「僕が開発した子たちは、みんな幸せになれるんだね」
「乃亜も、忌まわしい呪縛から解き放たれる。健人さん、感謝します」
「長谷川さん、カッコいいですぅ!」
「スカッとしたよ!」
由宇の兄弟たちは、一生懸命に言葉を選んでいる様子だ。
感謝、喜び、希望、様々な感情がどっと押し寄せ、なかなか巧く話せない。
「あの、その。こういう時、何て言えばいいのかな?」
「ストレートに、ありがとう、でいい?」
「ありがとう、だけじゃ足りない気がする」
そんな彼らに、健人はとびきりの笑顔だ。
「ありがとう、で充分だよ」
健人はやはり、優しい男だった。
ともだちにシェアしよう!

