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 ふう、と軽く息をつき、健人はスマホを握り直した。  わずかに、手汗で湿っている。  だが、言うだけのことは言った、と確かな手ごたえも感じていた。 「ありがとう、由宇くん。私に勇気をくれて」 「健人さん……」 「どうしたの?」  由宇は健人の大きな手のひらを握りしめたまま、涙をぽろぽろこぼしているのだ。 「僕、嬉しくて。健人さん、ありがとう。僕の、僕たちのこと、そこまで想ってくれて……」  気付くと、健人の周りには人の輪ができていた。  由宇や乃亜、圭吾だけでなく、美咲に大輝、そして全てのアンドロイドたちが、健人を囲んでいた。 「僕が開発した子たちは、みんな幸せになれるんだね」 「乃亜も、忌まわしい呪縛から解き放たれる。健人さん、感謝します」 「長谷川さん、カッコいいですぅ!」 「スカッとしたよ!」  由宇の兄弟たちは、一生懸命に言葉を選んでいる様子だ。  感謝、喜び、希望、様々な感情がどっと押し寄せ、なかなか巧く話せない。 「あの、その。こういう時、何て言えばいいのかな?」 「ストレートに、ありがとう、でいい?」 「ありがとう、だけじゃ足りない気がする」  そんな彼らに、健人はとびきりの笑顔だ。 「ありがとう、で充分だよ」  健人はやはり、優しい男だった。

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