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『も、もしもし?』
「7分経ちました。結論を聞かせてください」
『いや、その。つまり、協議の結果……』
「早く!」
初めて聞く健人の怒声に、由宇は驚いた。
ただ、電話の向こうが渋っていることは、解る。
この期に及んで、まだ話を引き延ばし、健人らの居場所を探ろうとしているのだ。
「私は、気が短いんです。結論を!」
『き、君の要求を、受け入れることになった。君たちの人権を認め、自由を保障しよう。研究所も、一度解散する。これで、いいかね?』
「OK。もし、あなた方が妙な考えを起こした時は、それなりの報復をしますから」
『報復、とは!?』
「少し想像を働かせれば、解るでしょう? 特別研究所からは、今後も目を離しませんよ」
では、ごきげんよう。
そう言い残し、健人は通話を切った。
息を詰めて見守っていた周囲は、その途端に歓声を上げた。
「やった、自由だ!」
「これで、乃亜と一緒になれる。実家にも、報告に行けるんだ!」
「ステーキ食べよう! お祝いの、ステーキ!」
「すき焼きも!」
「私は、スッポン鍋を」
「長谷川さん、サイコー! 超・カッコいい!」
だが、その場の全員は承知していた。
健人を抱きしめる役目は、由宇だということを。
「やったよ、由宇くん。私を、褒めてくれるかな?」
「健人さん……!」
健人の体に両腕を回し、由宇は涙をこぼした。
嬉し涙を、こぼしていた。
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