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「由宇くん! 今から『ホテル・アスカ』を貸し切りにして!」
「そんな無茶な! 予約してる人たちが、大勢いるんですよ!?」
「ホテルの公式ホームページをハッキングして、私たちが先に予約したことにしよう!」
「健人さん! それは悪事です!」
何だか健人が、起動したばかりの由宇のようなことを言っている。
乃亜がけらけら笑いながら、たしなめた。
「貸し切りには、しなくていいからさ。とりあえず、人数分の部屋を用意してよ」
「よし。じゃあ、ホテルを予約した後は、みんなで『銀寿司』に行こう!」
「健人さん。そのお寿司屋さんって、確か……」
由宇の心に、あの時の健人の言葉が鮮やかに甦って来た。
『由宇くんが私のところに来てくれた記念日を、ゆっくりお祝いしたいし』
あの健人の笑顔に、由宇は魅入られた。
素敵な、ヒト。
健人さんは、優しいヒト。
(あの瞬間から、僕の恋は始まったんだ)
ほんの少し前のことなのに、やけに長く経ったように感じる。
そして深く、刻まれている。
(健人さんへの愛は、続いてる)
想いを噛みしめると、手は自然に胸へと当てられていた。
そこに、ヒトの持つ心臓は無いのだが、なぜか温かい気持ちになった。
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