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 高級寿司店『銀寿司』には、本日貸し切りの札が下げられた。  宴会用の座敷には、もちろん健人や由宇、その兄弟アンドロイドたち。  乃亜、圭吾に、美咲や大輝も揃って、乾杯だ。  いくつもある大きな寿司桶には、美しい握りがたくさん並んでいる。 「追加で、どんどん握るよ! 注文があれば、言ってくれ!」  威勢のいい大将の声が響くと、負けないくらい元気な返事が幾重にも重なった。 「僕、茶碗蒸し!」 「俺は、潮汁を!」 「私は、醬油アイスを食べてみたいですね」  あれあれ、と大将は苦笑いだ。 「後で、ぜひ握りも味見してくれよな!」  彼は笑っているが、健人はさすがに気になって、カウンターへと歩んだ。 「すみません。寿司店は初めての子が、多いもので」 「気にしない、気にしない。元気な、いい子たちばかりだ」  健人の気まずさを笑い飛ばした後、大将は彼に優しいまなざしを向けてきた。 「長谷川さんのご夫婦が事故で亡くなったと聞いた時には、健人くんが心配だったよ」 「子どもの頃は、お世話になりました」 「これからまた、御贔屓にしてくれよな。こんなに素敵な家族が、新しくできたんだからよ」 「家族。新しい、家族……」  そこで健人は、改めて座敷席を振り返った。  弾けるような笑顔、笑顔、笑顔。  何だか、無性に泣けてくる。 「私はもう、独りぼっちじゃないんだ」  父さん、母さん。楽しいよ、とっても……。  大将に会釈すると、健人は笑顔の輪の中へと入って行った。

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