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カップをソーサーに置き、健人はまず乃亜に問いかけた。
「反対の理由を、教えてくれますか?」
「二人は結婚しても、いずれ辛い別れを味わうことになるから」
「それは、私がヒトで、由宇くんはアンドロイドだから、ですね?」
「自覚してるじゃん」
健人は、深い息を吐いた。
そうだ、解っていた。
不安は、私もいだいていた。
ただ、気づかないふりをして、その厳しい現実から目を背けていただけなのだ。
(私は老いて、やがては寿命を終える。だけど、由宇くんは……)
由宇くんは、いつまでも若々しい姿のままで、私を見送らなくちゃならないんだ。
その後は独りで、永劫の時を生き続けなきゃならないんだ。
思い出だけを、頼りにして。
その時、由宇が明るい声を上げた。
「僕、平気です。大丈夫、健人さんがお爺ちゃんになっても、傍にいます」
「由宇くん」
「もし、もしも、健人さんが死んじゃったら。その後は、乃亜さん。僕を、初期化してください。廃棄処分でも構いません」
由宇のつぶらな瞳から、涙がこぼれた。
健人が、死ぬ。
自分より先に、生を終える。
考えたくもない過酷な運命に、涙せずにはいられなかった。
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