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「健人さんの執念には、負けたよ」
「執念? 愛ですよ、これは。乃亜さん」
今すぐに、というわけにはいかないけれど、と前置きして、乃亜は健人の提案を飲んだ。
「ボディを、バイオメタル製の人工物に替えていく手術に、最低でも3年もらうよ」
「バイオメタル?」
「隕石から採取して培養した、生物と鉱物両方の特性を持つ、新素材さ。由宇も、それでできてるよ」
「いつの間に、そんな技術が……」
「特別研究所は、最新科学の最先端を暴走してたからね」
しかし、と圭吾はそこで初めて口を開いた。
「アンドロイドと添い遂げるために、自らをサイボーグ化する、とは……」
「圭吾さんだって、似た立場だったら、同じことを考えるでしょう?」
「確かに、な。俺は乃亜と共に、ヒトとして生涯を終えるとは思うが」
「いずれは僕たちの子孫が、由宇や健人さんたちを見守るよ」
子孫、と聞いて、由宇が健人に言いづらそうに声を掛けた。
「あの、健人さん。ごめんなさい、僕、さすがに赤ちゃんは産めません……」
「気にしないで。二人で、子どもが欲しいな、って思ったら、里親になろうよ」
「里親、ですか?」
「うん。世の中、戦争や災害で身寄りを失った子たちが、大勢いるんだ」
たとえ血が繋がっていなくても、そんな子たちの家族になれたらいいな。
どこまでも前向きな、健人だ。
由宇の涙は、止まった。
そして、健人という名の太陽に照らされ、乾いた。
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