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雨過
何気なくつけておいたテレビでは、梅雨の時期こそ楽しめる場所という特集が組まれていた。
タイミングが良いのか悪いのか。今更知ったところで予定を立てるには遅いだろ、と思ってしまった。きっとどこも混雑しているだろうし。
洗濯機を回して戻ってくると頭からタオルを被ったままの名取 がテレビをじっと見ている。彼が瞬きをすると、まつ毛がまだ濡れているのが分かった。
「名取、まだ濡れてる」
「あ? 粗方拭いたけどな」
「風邪ひくよ」
「……分かった」
こちらに振り返った名取が被ったままのタオルを引っ張って雑に髪を拭い始める。時折覗く髪がタオルの動きに合わせてあちこちへと散り、自分と同じシャンプーの香りが漂ってきた。
テーブルにお茶の入ったグラスを二つ置き、名取の近くに腰を下ろす。やっと落ち着けたことに自然とため息が出てしまった。
天気予報では今日一日晴れだと言っていたのだが、つい先ほど通り雨に降られてしまってびしょ濡れになったところだ。それなりに強い雨でゴロゴロと雷まで鳴っているとなれば、いつ止むかも分からない雨を外で待つわけにもいかず。
そこから近かった俺の部屋へ避難したのは良かったが今更もう一度外へ出る気も起きなくて、言ってしまえばびしょ濡れになって萎えたので、だらだら過ごす時間に切り替えた。
「飲み物持ってきたから、後で飲んで」
「ありがと」
テレビに目を向ければ綺麗に咲く紫陽花が見られる施設を紹介している。名取は意外とこういう自然のものが好きなんだよな。
確かに人の手が入った花畑は綺麗で、室内から雨に濡れる沢山の紫陽花を眺めるのはいい時間になりそうだと思った。
「紫陽花見に行く? 意外と近いみたいだよ」
「お前……紫陽花なんか見て楽しいのか」
「なんかって……まあ、楽しいよ」
名取のさっきの言葉の後ろには、「俺は楽しいけど」とついているんだろう。
決して言わないけれど紫陽花(を見ている名取)を見るのは楽しい。だから、俺の言うことも間違いじゃないはずだ。絶対に言わないけれど。
「宇都峰 はどっちかって言ったら花より団子だろ」
「だから聞いてるんだよ、美味しいランチがあるんだってさ。あ、ほら……ガラス張りになってるから紫陽花が見えるんだよ」
「美味そうだな」
「だろ?」
「……夏の旅行と立て続けになるけどいいのか?」
ランチメニューを見て少々葛藤した様子の名取がこちらを見る。
暑いのもあって俺も名取も夏はそれほど外出の予定を作っていない。だけど、今年はどうしても夏に行きたいところがあるからと二人で決めて、なんだかんだと毎年行っている旅行の日程をずらしていた。
「俺は構わないよ。……まあ、念のためちょっとバイトのシフト増やすかな、ぐらい」
「あー……俺もそんな感じだな」
「じゃあ決まり。ちょっと下調べしておこうか」
「ん」
きっと名取も俺のことを好意的に見てくれているはずだと確信があるし、ここで紫陽花を見ながら伝えるのもアリかもしれないとか思ったけれど。
やっぱりまだ秘密にしておこうと、あと少しでキスができてしまいそうな距離にいる名取をこっそり見つめた。
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