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二度目の夏祭り

夏祭りの喧噪が少し遠くの方に聞こえる。 俺と宇都峰(うづみね)は会場からゆっくりと歩き出し、混雑を避けて駅の方へと歩いていた。 「ほんとに人いないんだ」 「駅まで少し遠回りすることになるし、この辺は入り組んでるからな」 住宅街を通りぬけていく小道は薄暗く、街頭が等間隔に並んでいるものの少し頼りない。 どんどん喧噪が遠ざかっていくと急に日常に引き戻されるような感覚になった。辺りは静かで俺たちの足音だけがいやに目立つ。 「確かに、この感じじゃ地元の人以外はすぐに分かんないね」 「だろ」 ざり、ざり。 コンクリートと履いたサンダルが擦れる音。時折小石が巻き込まれて、少し大きな音をたてた。 訪れた沈黙が気まずくて何か話題を探してみるものの、すぐには思いつかない。いつもなら、こんなことないはずなんだけど。 「……名取(なとり)は、毎年夏祭り行ってたの?」 「まあ、家族と行ったり……後は誘われれば、ぐらいで。……毎年、ではない」 「なんか、いいね。地元の夏祭り、っていう響き」 「……そうか?」 「うん。そういう経験無かったし」 「じゃあ、去年のが」 自分で思っていたよりも、沈んだ声が出た。宇都峰がそれに気が付かないはずもなく、一瞬だけ少し驚いた顔をすると、苦笑いを浮かべて頷く。 ……結局言い出せなくて、去年の夏祭りのことには触れていなかった。 「初めてだった。知らない間に人数増えてて、あんな大勢で夏祭り行ったのも、会場ではぐれたのも」 「……宇都峰」 「俺の知らない名取の顔を見たのも」 「は……?」 「……あ、? え、いや……違う、えっと……」 宇都峰は自分でも混乱しているようで言葉に詰まっては、単語にならない音を零したりして必死に理由を探しているようだった。 アイツの知らない俺の顔。……そんな、記憶に残るような変な顔してたのか?いや、多分違うけど、宇都峰の想像している正解がうまく分からない。 「別に、どんな理由でも気にしてない」 「ごめん、俺も、なんか……そんなこと言うつもりじゃなくて」 「いいって言ってんだろ」 再び喧噪が近付いてくる。もうすぐ駅近くの大通りに出る頃だ。 夏祭りの賑やかなそれとはまた違うもので人間が活動している音がする。夜遅い時間ではあったが、夏祭りというのもあって普段よりも人がいるのだろう。 「……ごめん、名取」 隣に並んでいる宇都峰が足を止めたのが分かった。不思議に思って振り返ってみれば、何とも言えない表情でもう一度謝罪の言葉を口にする。 さっきのことに対する謝罪かと思って言い返そうとするが、どうもそういう風には見えなかった。 「……なんだよ?」 「……あの、さ」 珍しく宇都峰が言い淀んでいるのが、鈍い自分でも察せられる。駅の方から聞こえてくる喧噪を背にし、俺は完全に宇都峰の方へ身体を向けた。 もしかしたら、を考えなかったわけではない。だけど、ここでコイツを引きとめられないのも、もったいないような気がしたのだ。 「……俺、明日バイト休み、だけど」 「!!」 パッと顔を上げた宇都峰が、はくはくと口を動かす。 咄嗟に言葉が出てこなかったのか、それでも俺に伝えようとして嬉しそうに笑うと大きく頷いた。 「はは! そんな嬉しかったのかよ」 あんまりにも素直な宇都峰が面白くて声をあげて笑ってしまえば、今度はぽかんとした顔でこちらを見ている。 さっきからころころと表情を変えて忙しい奴。 「……うん、すごく嬉しいよ」 「そーかよ」 また穏やかに笑ってる。いやに真剣に言ったように思えて、俺は宇都峰から視線を逸らした。

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