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秋色をまとうあいだ

名取(なとり)、秋がいるうちに紅葉見に行かない?」 今週の月曜日頃にそう宇都峰(うづみね)から言われて、突然のことだったからか何も言えずに瞬きで返してしまった。 そのせいであまり乗り気ではないと思われたのか「着たい秋服があるって言ってたろ?」と後押しをされる。確かにそれらしいことを言った記憶はあるが、コイツに対してぶつけた言葉ではない。秋に入ったかと思えばここ数日は寒い日が続き、また秋服見送りか……と呟いただけだ。 まあ、いつものことなのでそれは置いておくとして。断る理由もそれほどなくて宇都峰からの誘いに頷けば、あれよあれよのうちに週末に予定をねじ込まれた。 *** 「遠出でもするのかと思った」 近くのコーヒーショップで暖かい飲み物を買って、大きな公園内へ足を踏み入れる。道の左右にそびえたつ木々は緑からすっかり色を変え、散った落ち葉が地面を彩っていた。少し離れた所にはイチョウがいくつも植えられているのか鮮やかな黄色が見える。 「急に秋になって急に冬になるから、全然下調べできてないんだ」 宇都峰の言う通り最近は気温の変化が激しくて、それに合わせて服装を変えるのが少し面倒になるほどだった。 しかし今日はここ最近の中でもマシな方で、秋服を迷わず選べるくらいには比較的秋らしい気温をしていたから、ただ紅葉を見る時間もそれほど辛くはないだろう。 日の当たる場所にあるベンチに二人で腰かけると、少し上を向いて高い青空と色づいた紅葉を眺め始めた。 「今年も気温に振り回されてるな」 「本当にね」 思わずため息を零せば自分の吐いた息が薄らと白くなっている。もう少しすればこれが当たり前になるのだろう。冬がすぐそこまで迫ってきているのだと感じて少々憂鬱な気持ちになってしまって、それを隣に座る宇都峰に悟られないようにカップに口をつけた。 冬は嫌いじゃない。季節で言えば好きな方だ。だけど、秋をかき消されるのは腹が立つ。 「つか……べつに、下調べしなくてもいいだろ」 「え?」 「お前は嫌なのか」 「……そんなことはない、けど」 「宇都峰がいいなら、俺は無計画に遠出したって構わない」 「……うん」 宇都峰が噛みしめるように頷いた。ちらりと横目で見れば嬉しそうに口元を緩める横顔が映って、そっと視線を戻す。 秋冬は気温のせいもあってなかなか予定を立てられずにいたから、今日のように勢いで外出の予定が立つのは珍しいことだった。遠出するとなると自分一人ではない以上難しいことだというのは分かる。普通に遊びに行くのとはまた話が違う。 少しの沈黙が流れて、それを埋めるように冷たい風が吹き抜けていく。 ざあ、と木々が揺れる音が聞こえてきたかと思えば黄色や赤色の葉が舞い落ちてきた。そのどれもが絨毯になるべく道へと吸い込まれていく中で、ゆるやかに降りてきた一枚が俺の膝に乗る。それを払い落とすのも何となく憚られ、指先で摘まんでくるりと回転させた。 綺麗な色だな、とぼんやり見つめていると宇都峰が吐息で笑う音が聞こえてくる。 「名取は秋が似合うね」 「急になんだ」 「なんとなく、そう思って」 「ふうん」 「次は、山とか……そういうところに紅葉狩りに行こうよ」 「……来年か?」 「来年かもなあ」 目まぐるしく変化する温度を思い浮かべて言えば、宇都峰も同じことを考えていたらしかった。秋に入ったばかりの頃は順調に秋らしさがあったはずだったのになと思いながらすっかり冷えてしまったコーヒーを飲み干せば、身体も冷えてきてしまっていたようで小さく身震いをしてしまった。 「流石に寒い」 「俺も寒くなってきた。さっきキッチンカー来てるって見たから、行ってみない?」 「アリだな」 「ピクニックみたいでいいね。急にお腹空いてきた」 「昼近いし、混む前に行こうぜ」 「そうだね」

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