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指先だけ

 パチッという小さな音と共に、鋭い痛みが指先に刺さる。大したことはないが、この季節になると起こる静電気というものはいつまで経っても慣れることはないのだろう。苦笑いを浮かべて指先をほんの少し眺めると同時に名取(なとり)を思い浮かべた。  きっと今年もまた静電気にイラついている彼が見られるのかと思うと、冬の訪れを感じるような気がする。名取に知られたら多分ものすごく変な目で見られるうえに罵倒が飛んでくるだろうから、これはずっと内に秘めていることだ。絶対に彼の反応が正しいけれど。 「はあ……寒すぎる」 「すっかり冬だね」  部屋の中は当然のように冷えきっていて、外よりは幾分かマシぐらいの体感温度だ。名取がさっさと部屋へ入っていくと、暖房をつけたらしく聞き慣れた電子音がする。  今日は授業が午前だけだったので、出された課題を名取の家で進めることにしていた。昼食と小さめのペットボトルに入った温かい飲み物を片手に帰ってきたが、飲み物はすっかりぬるくなってしまっている。身体も多少は温まっているがせいぜい気持ち程度だ。 「ん、ハンガー使え」 「ありがとう。今年もマフラーの類はしないの?」  名取から手渡されたハンガーに、自身のコートとマフラーをかける。上手く一つにまとめて落ちないようにすると定位置へハンガーを戻した。同じく名取もハンガーを手にしていて、俺とは違ってコート一枚を丁寧にかけている。明るめのブラウンカラーのそれは、一昨年辺りに一目ぼれして購入したと言っていたものだ。 「しねえ。静電気が鬱陶しい」 「気持ちは分かるけど。防寒はすべきだろ?」 「一応してるだろ」 「いつも寒そうなんだよ首の辺りが」 「ッあ!?」  俺が手を伸ばして首に触れると、名取がびくっと身体を揺らして声を上げる。それと同時に持っていたハンガーを落としてしまったようで床にはコートがくしゃりと丸まっていた。名取の首は思っていたよりも温かくて、俺の手の方がずっと冷たかったことにここで初めて気が付いた。 ……気まずい沈黙が流れる。まさかそんなに声をあげるだなんて思ってもみなくて、俺も驚きで言葉が飛んでしまった。 「え、っと……」 「……」 「……その、ごめ」 「帰れ」 「え?!」 「帰れバカ!!!!」  俺のコートとマフラーをひったくり、そのまま投げつけてきた名取の顔は真っ赤になっていた。それが気温によるものじゃないなんてことは分かり切っている。だって俺も顔がやたらと熱いからだ。きっと名取と同じように赤くなっているだろう。 「う、わッ!? ごめん! そんなつもりはなくて……!」 「うるせえ!」  どんなつもりだよ!と声を荒げながら名取は俺を玄関の方へと押し返していく。器用にさっき購入した商品の入った袋も押し付けてきて、玄関がもうすぐそこまで迫ってきていた。これに抗うのは火に油だと今までの経験からよく分かるから、このまま出ていった方がいいだろう。課題はまだ提出までに余裕があるから大丈夫だ。  意識して違うことを考えていたはずなのに、敢えて逸らして遠くへ追いやった思考が勝手にじわりと滲むように出てきてしまって思わず名取から視線を外す。今考えるべきはそんなことじゃないとでも言わんばかりだ。  違う、そんなこと思ってない。べつに、初めて聞いたなとか、可愛いなとか……もっと、とか……思ってない。 「……」 「……? 何黙ってんだよ。宇都峰(うづみね)?」 「ッえ、あ……ごめ、ん」 「……お前」 「か、帰る。帰るね俺、また明日やろう課題は」 「は?」 「じゃあね名取、帰ったら連絡するから」  矢継ぎ早にそう伝えて手早く名取の家を出ると、コートもマフラーもそのままに暫く歩いていく。今ばかりは外の冷たい空気がひやりとして気持ちいいとすら思えて。  多分名取は追いかけてこないはずだけど、後で理由を説明するのに困りそうだなと頭を抱えそうになった。

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