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瞬き

 住宅街へ入ると、ぐっと人通りが減る。だんだんと喧噪が離れていき、お互いの声がより聞こえやすくなると、俺は少しだけ声を潜めた。  用事があったらしい名取(なとり)と合流することになったのは帰りの電車内で。こういうことはごく稀にあるが基本的に名取は俺の家で待ってくれているから、何だか新鮮な気持ちだった。  学生の頃も似たようなことはしていたけれど、それとはまた違うような感じがする。いつもは疲労でしんどいだけの帰り道も少しは気が紛れているように思えた。 「……宇都峰(うづみね)って星座詳しいっけ」 「有名どころが分かるぐらい、かな」  話していた名取が自分の吐いた白い息を目で追って、ふと空を見上げる。俺もそれにつられて見上げ、思わず足を止めてしまった。街灯や建物の明かりが減ったお陰で星がよく見えるのだ。空を見上げるなんて滅多にしなくなったなと、ぼんやり思ってはなんとなく星座の形を探す。 「オリオン座くらいしか分かんねえ」 「形が分かりやすいよね」  そっと星空を見上げる名取の横顔を見つめる。自分からそういう選択をとった癖に、昔に比べたら距離が少し遠いような気がしてしまった。俺が少し後ろで立ち止まったというのもあるけれど、きっとそれだけではないはずだ。 「こんなまじまじと星見たの久しぶりだ」 「……うん、俺も」 「もう少し見ていくか?」 「大丈夫。帰ろう」 「ん、分かった」  それから少しの沈黙が流れる。普段なら気にならないそれが、いやに気になってしまって、俺は見えない距離を埋めるようにして声をかけた。勝手に寂しくなって、勝手にあがいて、ものすごく滑稽だと思うけれど。それでも引きとめたくて、直接言葉にはできない分、別の形でどうにかするしかなかった。 「名取は星、好き?」 「まあ……詳しいことは分かんねえけど、見る分には」 「俺も似たような感じ」 「急になんだよ?」 「なんとなく聞いただけ」 「ふうん」  一歩先を歩いていた名取が空を見上げ、それから視線を降ろしてこちらを振り返る。伏し目がちに向けられた視線が俺を射抜くと、何でもないように瞬きをして、次の瞬間には俺のことを見ていなかった。  振り向きざまに名取の目元がきらりと輝いて、こちらを見ていないのを惜しく思うのと同時にまるで星のようだと感じてしまう。思わず伸ばしてしまいそうになる腕を抑え込んで、俺は物理的に距離を縮めるべく後を追いかけた。 「今度、プラネタリウム行かない?」 「……却下」 「えッ」 「プロジェクター買ったからうちに来い」 「ついに買ったんだ……」 「寝ながら映画見られるぞ」 「最高」

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